とーしばブログ

こんにちは、とーしばブログのとしです。オーストラリア、ニュージーランド、カナダの3カ国でのワーホリの体験談、フィリピン、マレーシアでの留学経験。読書や勉強で得た知識や考えやニュージーランドでの投資についてブログで発信しています。

児童文学の名作『モモ』時間泥棒の正体とは?

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こんにちは

とーしばブログのとしです

最近ミヒャエルエンデの【モモ】を読みました。児童文学でページも400ページほどある大作です。

ドイツの作家ミヒャエル・エンデ【モモ】も有名な作品ですが、【果てしない物語】も有名です。

 

児童文学なので子供向きかと思いきや大人が読んでも十分面白い本です。

むしろ現代を生きる大人が読むべき本です。

 

toshihsto145.hatenablog.com

あらすじは他の人も解説していると思いますが、僕は中でも時間泥棒というキャラクターがとくに面白かったので時間泥棒について考察していきたいと思います。

 

モモのあらすじ

とある街に現れた「時間貯蓄銀行」と称する灰色の男たちによって人々から時間が盗まれてしまい、皆の心から余裕が消えてしまう。しかし貧しくとも友人の話に耳を傾け、その人に自信をとりもどさせてくれる不思議な力を持つ少女モモが、冒険のなかで、奪われた時間を取り戻すというストーリー。

「時間貯蓄銀行」を名乗る灰色の男達は、「時間を貯蓄すれば命が倍になる」と偽り、人々から時間を奪う。その魔の手がついにモモにまで及ぶ。モモをターゲットとした「時間泥棒BLW553号」は、モモの「時間泥棒も愛されている」という言葉に自失し、時間泥棒の秘密を話してしまう。組織は、「時間泥棒BLW553号」を裏切り者として裁判にかけ反逆罪により死刑を宣告。彼は煙のように消される。と続き、最後にモモは盗まれた時間を解放する。(wikiペディアによる引用)

 

モモ (岩波少年文庫)

モモ (岩波少年文庫)

 

 

人生に不安と不満を持つ理髪師

モモの暮らす街の理髪師はある日こんな不満を漏らします。

『おれの人生はこうして過ぎていくのか、、俺はいったい生きていてなんになった?俺は人生を誤った』

さらに理髪師のセリフはこう続きます。 

『俺は何者になれた?たかがケチな床屋じゃないか!! もしもちゃんとした暮らしが出来てたら、今と全然違う人間になってたのに!!』

 

でも理髪師にはちゃんとした生活ということが分かりませんでした。立派そうな生活、贅沢な生活、週刊誌に載っている洒落た生活、そういう生活を漠然と考えていました。

↑これって自分達が日々抱えている将来や仕事への不安や焦りそのものですよね?

 

日々の仕事に忙殺されて、果たして自分の人生に意味があるのか? 自分は何者にもなれないのか?

テレビやYouTubeで見るキラキラした成功者達の豪華な生活に憧れる一方で、自分現状に不満や不安を持つ、理髪師のセリフは現代の我々そのもののように感じました。

そんな理髪師の不安を不満や不安を見抜いた灰色の男たちがモモのいる街に現れます。

 

理髪師の前に現れた灰色の男たち

そんな理髪師の前に灰色の男たちが現れます。

理髪師の前に現れた男たちは、理髪師の不安不満を見事に言い当てます。   

「ようするにあなたが必要なのは時間だ!!」灰色の男たちはそう言います。

しかし、灰色の男の言いなりになった街の人々は、時間泥棒に自分の時間を売り渡したために

時間がどんどんなくなっていきます。

 

徹底的に無駄を排除した灰色の男たち

時間は人生そのものです。どんなことがあったかによって一瞬にも永遠にも感じられるそれが時間です。灰色の男たちはその本質を見抜き時間の値打ちをよく知っていました。

理髪師の前に現れた灰色の男の名前は XYQ/384/b

無駄を省いて、省いて効率化した結果、名前すら効率化してしまいます。

さらに灰色の紳士すら無駄と考え 自らの色彩を灰色に統一します。全身灰色の紳士たちは徹底して無駄を排除します。

自分の時間を節約するだけでは限りがあることに気がついて、最終的には他人の時間を利用することを思いつきます。

(なぜ男達が灰色なのか、葉巻を吸っているのかは本作で説明していますが、これは僕の考察です)

 

理髪師に向かって男たちはこう言います。

「あなたは時間を無駄使いしています!!時間はどこから手に入ります?倹約するしかない」

 

灰色の男は理髪師と一緒に暮らす母親が耳が聞こえないことを知り

「耳の聞こえない母親を相手におしゃべりをする。これは無駄に捨てられた時間です。」

そしてこう続きます。

「あなたの母親は体が不自由だから、家事をいくらかあなたがしなくてはなら無い、そういった面倒なことがいろいろある。それにどのくらい時間がかかってます?」

 

さらに理髪師の恋人が足が不自由なことを知ると

「足が悪くて一生 車椅子から離れられない彼女に毎日、毎日花を持って訪ねるために半日も使っている。冷静に考えればそれは無駄な時間だ」

灰色の男たちは徹底的にあらゆる灰色の男たちが考える無駄という無駄な時間を指摘して、排除するように理髪師に言います。

 

同性愛者・障害者の無駄を排除しようとした

ナチスドイツ

この灰色の男たちの徹底的に無駄を排除しようとしたセリフ、もしかしたら【モモ】の中にはこういったドイツの全体主義の歴史が反映されているのかもしれません。

【モモ】の作者エンデが生きた時代

ナチスドイツがヨーロッパで台頭します。

あまり知られていませんが、ナチスドイツは、生きるに値しない命として、同性愛者や障害を持つ子供や大人を効率的に殺害するという計画を実行しました。

 

これは安楽死計画(T4作戦)といわれナチス政権下では国家機密として国民に知らされることはありませんでした。

町や村に障害を持った大人や子供がいると知ると、ナチスの灰色のバスがやって来て、治療をすると偽り連れ去って行ったと言います。そしてナチスに連れて行かれた人は2度と戻って来ませんでした。

 

ナチス政権は、ドイツ国内に障害を持った人たちを殺すための安楽死施設を建設します。これらの施設は、

にありました。一番有名な場所が、ベルリンのティーガルテンにあった安楽死施設です。

ドイツ国内だけでも20万人の人たちがナチスから一方的に生きる価値が無いと判断され殺されました。

 

ナチスドイツによる安楽死作戦の歴史を踏まえた上で、改めて灰色の男が言った

「足が悪くて一生 車椅子から離れられない彼女に毎日、毎日花を持って訪ねるために半日も使っている。冷静に考えればそれは無駄な時間だ」というセリフにゾッとしませんか?

 

無駄を排除するということの究極の形が、かつてのナチスドイツの思想に行き着くということをエンデは【モモ】を通して現代の私たちに警告しているのかもしれません。

 

戦後の近代化の象徴

灰色の男達は街の人々から時間をどんどん奪っていきます。 仕事が忙しくなり経済的に豊かになる代わりに、いつもせかせかして余裕が無くなりイライラするようになりました。

これってまさに僕たちの姿そのものですよね?

仕事が忙しくていつも仕事で自分の時間が無い、せかせかイライラしてる。

灰色の男に支配された人々は現代の我々そのものです

モモや街の人々からは時間泥棒と言われますが

灰色の男達は自分達が人々を豊かにして、そのかわりに見返りとして時間をもらっていると思ってると思います。

資本主義社会でも働く者より資産を持つものの格差がどんどん広がっています。

モモの世界より現代の人々の方が時間も経済もより貧しくなってる気がします。

今の我々は時間だけでなく、経済すら貧しいのが現実です。

 

現代人が失ったもの

【モモ】のなかで街の人々は成功の代償として、自分の時間や心の豊かさを失います。

人々はモモに会うために人々は円形の広場に来なくなりました。 いつも来ていた子供達もいつしか

学校へ通い遊び方までも習う始末、将来に役に立つことだけを勉強して子供達は全く生き生きしていません。

子供は自由に遊ぶことや空想することを忘れて、将来に社会の歯車になるための勉強をしています。

子供達はいつしか学校で社会の歯車になるための勉強をして想像力遊ぶことを忘れてしまいます。

 

モモの親友ジジは華やかな成功を手にする代わりに昔の貧しいころの情熱を忘れてします。

モモとの再会を喜ぶジジでしたが、取り巻きの女性たちはお金儲けしか頭に無く、モモのことをビジネスに利用しようとします。 

現代でも、ビジネスチャンスとか人脈などの言葉を聞きますが結局は損得勘定のお金が目当てなように思います。

世の中に溢れた目先の成功ばかりを追いかけるジジの姿は、現代の僕たちそのものだと思います。

 

ファーストフード店を開業したニノもまた成功を手にしますが、いつも忙しくモモがやって来ても

ほとんど会話することが出来ず、店に来た客も忙しくイライラしてモモニノを追い立てます。

ファーストフードにより便利になったものの、効率や早さばかりを重視して食の豊かさを失った

現代の象徴にも見えます。

ファーストフードなどの食品は便利さの代わりに栄養バランスや食の豊かさは失われてしまいます。

 

ジジと同じく親友のベッポも丁寧に働くことより効率重視の働き方になり、いつもイライラせかせかするようになりました。丁寧に働くことより、より効率的で早さを重視した働き方になります。

 

 

灰色の男達の本当の正体は?

この物語の中で灰色の男たちの正体は、無駄を徹底的に排除した現代の効率化や資本主義の象徴

灰色の男たちにとって効率化こそ正義であり、無駄だと思うものは徹底して排除します。

経済的に成功しても、いつの間にか心の豊かさ生活の豊かさを失ってしまいます。

時間泥棒に時間を奪われた人々は世の中に溢れた目先の成功の姿を追いかける現代人の姿だと思います。

 

エンデの先見性

エンデが【モモ】を発表したのは1973年のこと、戦後どんどん豊かになり経済が成長していた時代です。効率化や資本主義によって失うものをいち早くテーマとして書いたこの作品は非常に先見性があるなと思います。

子供向けの文学に見えて、実は大人が読んでも十分面白くむしろ現代人が抱えてる問題そのものです。

大人こそ読むべきドイツ文学の名作、皆さんもぜひ読んでみてください。