とーしばブログ

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ブレヒト版【アンティゴネー】からウクライナ情勢とプーチンによる独裁政権について考える

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今回は、ブレヒトの改変版[アンティゴネー]から、ウクライナ情勢とプーチンによる独裁政権について考えてみたいと思います。

ギリシャ古典[アンティゴネ]は、ブレヒトの出身国ドイツやヨーロッパでは、中学、高校の授業で扱われる有名な古典なのですが、日本ではあまり有名ではありません。

[アンティゴネー]の前の話にあたる[オイディプス王]はオイディプスコンプレックスなど心理学用語で聞いたことがあるかもしれませんね。

 

アンティゴネー】とは?

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アンティゴネー]は、紀元前442年ごろ、古代ギリシア三大悲劇詩人の一人ソポクレスの作品です。

 

アンティゴネーの舞台はギリシャの都市テーバイです。オイディプス王は呪いにより、テーバイに帰れば、父を殺し母と交わるという呪いを受け、母との間にできた呪われた4人の子ども二人の息子ポリュネイケス、エテオクレスと、二人の娘アンティゴネとイスメネが生まれます。

オイディプス王亡き後、息子ポリュネイケスとエテオクレスは、一年ごとに交互に国を統治する取り決めを交わすものの、兄弟はやがて王座をめぐる覇権争いに発展。兄は一騎討ちに敗れ殺されてしまいます。

その後、王位に就いた叔父クレオン王は、国に攻め込んだポリュネイケスの遺体は、国賊として葬礼を禁じ、野ざらしにするように命じます。

アンティゴネは、その禁令に背き、兄を弔おうとし捕縛されてしまいます。死んだ兄の埋葬の是非を巡り、激しい議論が交わされるという内容です。

 

⇒これがアンティゴネーのオリジナルストーリーのあらすじです。

 

ブレヒトアンティゴネーの内容

ブレヒトアンティゴネは、一部の内容が改変されています。

 

テーバイのクレオン王が、鉱山の資源のため、そして自らの野望のために、アルゴスへの侵略戦争を始めます。アンティゴネーの兄ポリュネイケスとエテオクレスも戦争に参加しますが、エテオクレスは戦死し、ポリュネイケスは戦場から逃亡し反逆罪で殺されてしまいます。

 

クレオン王は、国家に反逆したものは、こうなるのだということを国民に示すため、逃亡した兄ポリュネイケスを反逆者として処刑し、遺体を葬ることを禁じます。

 

アンティゴネはその禁を破って兄を弔い、伯父クレオンに抵抗するというあらすじです。

アンティゴネーと独裁者クレオン王のやりとりからは、ブレヒトが伝えたかったメッセージが伝わってきます。

 

アンティゴネーの改作から独裁政権侵略戦争を痛烈に批判した

こうした改変は、劇作家ブレヒトナチス政権下の時代を生き、ナチスから逃れ、ヨーロッパ各地を転々とし、アメリカとスイスに亡命したブレヒトの背景があります。

改変版のアンティゴネーは、戦後間もない東ドイツで上演されました。

 

ブレヒトが生きた時代は、ナチスドイツが台頭した時代です。ナチスによる独裁、戦後廃墟になったヨーロッパ、そしてドイツのありさまを見たからこそ、古代ギリシャの古典だった[アンティゴネー]を侵略戦争独裁政権を批判した作品にしたんですね。

 

アンティゴネーというギリシャ古典のあらすじを改作することで、独裁政権侵略戦争を痛烈に批判しました。

 

ブレヒトアンティゴネーから、現代のウクライナ情勢とプーチンによるロシアでの独裁政権について考えるのにも役立つと思います。

 

 

独裁者としてのクレオン王

ブレヒトアンティゴネーには、テーバイ王国の独裁者としてのクレオン王が登場します。ここには、ナチス政権とヒトラーという裏テーマがあります。

番兵が、クレオン王のことを「総統殿(総統はヒトラーへの呼び方)」と呼ぶ場面からもこのことがうかがえます。

 

これは、アンティゴネーの兄である、ポリュネイケスとエテオクレスが覇権で争い死んだというオリジナルから、クレオン王が始めた侵略戦争に従軍した2人の兄のうち、1人は戦死、もう1人は戦場から脱走して反逆罪で処刑されるというところからも分かります。

 

クレオン王が始めた侵略戦争で、多くの戦死者が出て泥沼化、脱走した兄ポリュネイケスを見せしめとして処刑することで、テーバイ王国の兵士を恐怖でコントロールしようとします。

 

戦場からの逃亡を禁止したクレオン王自身は、戦場から遠く離れた安全な王宮に住んでおり、戦意高揚のためにバッカスの祭りをしたり、戦争の正当性をアピールします。

 

テーバイ市民も独裁者クレオン王に逆らうことが出来ず、戦争の成り行きを見ています。

 

独裁者クレオン王は、自分に逆らうとこうなるということを示すためにアンティゴネーの兄ポリュネイケスの遺体を野ざらしにして遺体の埋葬を禁止することで、テーバイ市民に対しても恐怖を与えます。

アンティゴネーは、そんな兄の遺体を埋葬します。それにより、アンティゴネーはクレオン王の兵士に捕まり、クレオン王により岩屋に閉じ込められ、自ら命を絶ってしまいました。

そして、テーバイはアルゴスの頑強な抵抗により敗退、クレオン王とテーバイは逆にアルゴスに攻め込まれ滅びてしまいます。

 

資源をめぐる戦争

ブレヒトアンティゴネーでは、「鉱(あらがね)欲しさにクレオン王が遠いアルゴスに仕掛けた戦争」という台詞が登場します。

 

ここで出てくるのが資源をめぐる戦争というテーマです。第一次世界大戦第二次世界大戦、20世紀、21世紀に起きた戦争、紛争、そして今のウクライナ戦争などの根幹は、領土とそこにある豊かな資源をめぐる戦争です。

 

ウクライナ戦争もドンバス地方は資源豊かな地域と言われており、ロシアは親ロシア派をウクライナから保護するためと言いますが、実はロシアが親ロシア派としてウクライナから独立をさせようとしているドンバス地方には、重要な工業地帯と鉱山があるなど、資源をめぐる戦争という側面もあります。

 

抵抗か服従か?

脱走の罪で処刑された兄を埋葬しようとするアンティゴネーとそれを止めようとするアンティゴネーの妹イスメネの会話が独裁政権に対する抵抗か服従か?という視点から考えてみます。

 

アンティゴネ「あなたは私より若いから、恐ろしさというものがまだ分かっていないの。すんだことでも放って置いたら、すんだことにはならないのよ」

 

イスメネ「男の人に刃向かってはいけない。もっと辛いことでも従わなくちゃ。暴力で抑えつけられてる私は、その制圧者に従って生きるしかありませんと。甲斐なきことをするのは愚かなことです。」

 

イスメネは死んだ兄を埋葬しようとする姉アンティゴネーを止めようとします。テーバイ市民もクレオン王の恐ろしさに異議を唱える人はいません。

 

アンティゴネーのセリフでは「すんだことでも放って置いたら、すんだことにはならないのよ」というセリフが出てきます。
これは独裁政権に市民が何も抵抗したり、異議を唱えないことへの警告だと思います。

 

すんだことは独裁者が全ての権利を握って戦争を始めてしまった状態であり、すんだことにはならないとは、それがエスカレートして取り返しのつかない状態にまで悪化してしまうということです。

一方で、イスメネの「甲斐なきことをするのは愚かなこと」とは何を指すかと言うと、独裁政権と今起きている戦争について関わらずに見て見ぬふりをした方が良い、自分たちには現状を変えることはできないという意味が込められていると思います。

 

かつてドイツ、日本、イタリアが始めた戦争、軍事、ファシズム政権とそれを許してしまった国民への批判というメッセージが込められていると思います。

そして、今ロシアでもプーチン政権によるウクライナ侵攻で似たような事態が起きています。アンティゴネーに込められているメッセージは今でも人々の心に訴えるものがありますね。

 

クレオン王とアンティゴネー会話

クレオン王「祖国のために身を捧げた者もおるぞ、お前には、自分の命を惜しんだ男ももう1人の男と同じなのか?」

アンティゴネー「その人は、あなたの僕ではなかっただけのこと。」

クレオン王「なるほど、お前にとっては、不敬の徒も愛国の士も同じなのか?」

アンティゴネー「祖国のために死ぬのと、あなたのために死ぬのことは、違うのでは?」

クレオン王「じゃあ、今やっているのは戦争では無いのか?」

国家が戦争を始める時には、必ず大義名分を掲げたり、プロパガンダを使い愛国心を煽ります。そして民族や国家、歴史などを使い国民を扇動します。

かつての日本でも、ナチスドイツ政権下でも、今のプーチン政権下のロシアでも、戦争に反対する人、徴兵制を拒否する人は、非国民として、秘密警察に捕まっています。

 

 

アンティゴネー「他の国を手に入れるため。あなたは自分の国で私の兄たちを支配するだけでは満足しなかった。木立の下で不安なく暮せば、テーバイは心地よい国。

なのにあなたは、遠いアルゴスまで、兄たちを引っ張っていかねば気が済まなかった、そこでも兄たちを意のままにしようとした。

そして、1人の兄を平和なアルゴスの民の虐殺者にし、それに驚いたもう1人の兄を、他の兵士への見せしめに八つ裂きにして、死体を野ざらしにしてしまった。」

戦争が始まると、平和に暮らしていた人たちを戦争に追い立て、戦争によって兵士として戦場で戦い、時には罪のない人を殺したりする殺人者にします。

そこでは脱走したり、命令を拒否することは軍の命令違反として処罰される現実があります。

 

 

クレオン王「いいか、お前たち、何も言うな、命が欲しければ、この女に同調してはならんぞ」

アンティゴネー「でも私は、あなた方に訴えます。権力を追い求めるものは、渇って塩水を飲むのと同じ、やめられないのです。ますます飲み続けずにはいられない。昨日は兄、今日は私」

かつてのナチスドイツのヒトラーのように、最初は国民の支持を得て選挙で選ばれた独裁者は、徐々に暴走して権利をほしいままにします。

それでも足りずに戦争を起こしたり、国民を意のままに操って自分の権力に固執するのですが、最後は歴史の通り滅びてしまいます。

プーチン政権もウクライナに侵攻しているのは、自己保身のためと言われています。自己の権利を維持するために民主化したウクライナを親ロシア政権にするために戦争を始めました。

どの時代でもアンティゴネーのセリフのように[権力を追い求めるものは、渇って塩水を飲むのと同じ、やめられないのです]

 

クレオン王「この女は、テーバイの国の分裂させようとしている」

アンティゴネー「統一を叫ぶあなた自身が、争いを勝手に生きている」

クレオン王「私はまず何よりこの国で戦う」

アンティゴネー「なるほど、よその国に暴力を振るう時は、自分の国にも暴力を振るわなければならないもの」

独裁者は自分の思い通りにいかない国民を弾圧します。まずは自国で、そして侵略した国で自分の政権に反抗する人は危険な存在として排除します。今のロシアでもプーチンに反対する人はどんどん逮捕されています。国民はそれを知っていて、目立って反抗する人や意義を唱える人がどんどん減っていってますよね?

 

 

クレオン王「テーバイが分裂して異国の支配の餌食になっても、かまわないと言うのか?」

アンティゴネー「あなたたち支配者と言うものは、いつも脅しをかけるもの。国が分裂すれば滅びるぞ、見知らぬ他人の餌食になるぞ。すると私らは頭を垂れて、あなた方に生贄を引きずっていく。おかげで祖国は弱り果ている。他人の餌食になってしまう。

あなたに頭を垂れることですでに、他人の餌食になっているのです。頭をされた人間には、我が身が身に降りかかるものは見えはしない」

 

独裁者は、まず国民の恐怖を煽ります。ロシアでもプーチンがロシアにはウクライナベラルーシという緩衝地帯が必要で、ロシアはNATOから攻められないようにしなければいけないと言うことをプロパガンダでアピールしています。

裏切ったのは、不拡大方式を偽ったNATOであり、正しいのはロシア側だという主張を繰り返します。

こうやって、自分たちの国が攻められるかもれないという恐怖心を煽るんですね。

 

テーバイの敗北 

アンティゴネーを処刑したクレオン王、そしてテーバイの勝利の祝いをするのですが、そこへ知らせが届きます。

 

使者「不幸な知らせを持って参りました。あまりに早すぎました。勝利の祝いはやめさせてください。新たな戦闘であなたの軍隊はアルゴスに打ちのめされて逃走中なのです。メガレウス殿も今は亡く、

あなたはポリュネイケスの逃亡を罰し、これに不満なたくさんの兵士まで行って捉え、見せしめに公開の縛り首にした上で、ご自分は1人、テーバイに急いで戻られた。

勇気ではできないことも、恐怖が鳴らせる。だが地形や武器、食料もものをいいます。

アルゴスの民衆も、不屈に戦った。アルゴスは、今、テーバイへと人や戦車の総力を挙げて通りへと押し寄せてきます。」

これを聞いたクレオン王はすぐさま、息子ハイモンを呼び寄せようとしますが、自害してしまいます。

 

テーバイ国の敗北は明らか、それでもクレオン王は自国の敗北を信じきれず、

「滅びるがいい、わしと共に、破滅するがいい、ともにハゲワシの餌食となるがいい、それこそ本望じゃ」という言葉を残して、この話は終わります。

 

独裁者というのは、プロパガンダで敵国への憎しみや恐怖を煽るだけでなく、戦果を偽るというのも、日本軍、ナチス、そしてロシア軍にも共通しています。

第二次世界大戦の結果は、歴史が示しているようにファシズム国家の敗北で終わりましたが、日本軍もナチスも敗北する最後の最後まで敗北を認めず、国そのものが滅びる一方手間まで行きました。

 

ロシア軍もプーチン政権がどうなるか分かりませんが、「ロシア人無しの世界はあり得ない」ということを言っています。

 

ナチスヒトラーも同じようなことを言い自殺しているので、テーバイ国のクレオン王が言った「滅びるがいい、わしと共に、破滅するがいい、ともにハゲワシの餌食となるがいい、それこそ本望じゃ」は独裁者の最後の断末魔と言えます。

 

最後に

このようにブレヒトアンティゴネーを通して過去や現代の独裁政権侵略戦争を痛烈に批判しました。今はロシアのプーチン政権を批判するメッセージとしてメッセージ性がありますが、どの時代にも通用する名著だと思います。